前回のイスラエル人夫婦のガイドから1週間を置いてまた同じ人をガイドした。その間に彼らは京都に行き、現地のボランティアガイド3人に案内を頼んだようだった。今回は主人のHは会議で忙しく、奥さんのMだけのガイドになった。 10時の待ち合わせ時間通りに会う。博物館見学の予定だったが、丁度桜も開花し始めたので、上野公園も見たいという。そこで国立博物館に行く途中に上野を案内することになった。上野公園の桜はもう3分咲きくらいの感じで、春休みの家族連れでにぎわっている。1週間前歩いた時は「梅見」だったので、「あれは本当にサクラか?」という。梅との区別がつきにくいようだ。確かにソメイヨシノは白くも見えるけど、「白梅は真っ白なのに桜は少しピンクがかってみえないか?」と言ってみるが自分でも後味が悪い。さらに「日本人はどうして桜がこんなに大騒ぎするほど好きなのか?」と来た。確かに色は地味だけど、多分長い冬の終わりと春の到来のシンボルだし、パッと咲きパッと散る生き方が日本人の共感を呼ぶのかもと言ってみるが、これもあやしい。 京都で清水寺に行ったというので、上野の清水寺も案内し、小さな「舞台」も見る。ついでに大仏と、サクラ越しに寛永寺の五重塔も見て写真を撮る。 国立博物館は今回は荷物をロッカーに入れるのが義務付けられた。100円コインを入れて使うが荷物を取り出すときに返却される。彼女は大学で現在日本文化を学んでいるだけあって、興味旺盛。随所に掲げられた大きく長い英文の説明を全部読みながら展示物もじっくり見る。長い説明を読む途中で文中の語の説明も求められるので、私も普段は読まない時代背景の長い英文説明を付き合わされて読む。 国立博物館の良い点は、禁止のマークがある少ない展示を除いて、貴重な資料も大抵写真撮影がOKであることだ。だから彼女もどんどんiPhoneのカメラを向ける。特に浮世絵は特にお気に入り。息子へのお土産に買った「浪間の富士」の本物を見たいと言う。係官に聞くと、確かにそれは国立博物館が所蔵しているが、何分にも11万点の所蔵品の中から展示するのはごく一部なので、今は出してないとのこと。源氏物語の屏風絵もお気に入りで、2種の英訳が出ていることを言うと、帰ったら読んでみると張り切る。茶器のところでは利休と秀吉の話になり、それも知っている。隠れキリシタンの本物の踏み絵が並べてあるところにもとても興味があるようす。1階の仏像も丹念に見て質問が飛ぶ。 出てみるともう2時半を回っている。遅いけど昼食にしようと広小路の和食屋でエビ天や焼き鳥などをサラダと一緒に食べる。ビルの上の方で窓に面した席なので、見晴らしが良くて彼女も上機嫌。 江戸東京博物館にも行きたいというので、今度は両国へ。入館は5時までというのに着いたのは4時過ぎ。もう館内のガイドはいないし、私が説明。確かにここは絵図などの資料から細かい作りの模型や舞台などを作ってリアリティの再現に一工夫してあるし、2階分の広い空間を大胆に切り込んで巨大な模型と細かい展示を関連付けて疑似体験の気分が出る仕組みが面白い。彼女も大名屋敷や三井越後屋の細かい造作には驚き、浮世絵の版木を刷り合わせて全くブレのない絵が出来る過程には、日本人の細かな正確さが見事に表れていると納得のようす。ただ、戦争の記録の品々は、時間もなかったせいもあるが、見たくないという気持ちも感じられた。ここに来てもやはり戦争なのか...という感じ。 相撲はあまり好きではないといっていたが、外に出て両国の駅に近くの屋台で力士の48手を描いタオルを売っていたら、男友達にお土産とかで、2本も買う。主人がいないから自由に買える...と言いながら。 最後にちょっとコーヒーでも...。と両国駅前のカフェに入って話す。昨夜主人の仕事の関係で日本人の医者と夕食を取ったとき、その医者が「自分は給料を全部妻に渡して、妻から小遣いをもらうのだ」と言うのを聞いて驚いたという。イスラエルではまずないことらしい。「あなたはどうしてる?」と聞くと、2人で話し合って決めるのだそうだ。 イスラエルではちょっと道端に荷物が置かれたりすると、すぐにまわりの人たちがパニックになって大騒ぎをするという。それほど爆弾テロの恐怖が日常化しているらしい。 彼女は30年間特殊学級の教師をしていた。イスラエルでも自閉症(autism)が深刻な問題で、その原因はまだ確定されていないが、彼女も心理学や精神医学を学んでずっと取り組んできたという。しかし世間で単なる怠惰と誤解されるのを解くことが何より大変だったとのこと。そしてうらやましい話だが、50代で退職。日本に興味を持って大学に通い、第2の人生を充実させたいと張り切っていた。
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Jはテルアビブで投資銀行の公認会計士をする53才で、奥さんのRも別の会社の公認会計士(49)。3人の娘がいて、長女が今付き合っているボーイフレンドが実は2か月前にガイドをしたHとM夫妻の長男のIであるということが、メイルの交換中に判明し、驚いた。彼らの長女とIはテルアビブの別の大学でそれぞれ公認会計士を目指して勉強中で、その関連の研修会で知り合って付き合い始め、それぞれ家族ぐるみの付き合いに発展したという。 Jは30年前にバックパッカーとして日本にも来ていてかなり日本を知っている上に、今回も広島から始めて、京都、姫路、箱根、鎌倉と自分たちで回って東京が最後。しかも若い頃のバックパッカー精神は生き残っているようで、メイル交換中にも東京の祭りを自分たちで見たいと言ってきていたので、前々日の週末5/12に予定されている上野・下谷神社と川崎大師の祭りを紹介しておいたら、下谷神社には自分たちで行っていた。また5/11には東京に到着していて、原宿・明治神宮も個人で訪れていた。彼らのパレスホテルは皇居のすぐ前にあり、自分たちで東御苑にも行けるし、築地も翌5/15に4時起きして自分たちで行きたいとのことで、さらに大相撲も紹介したサイトで予約を済ませ、5/15の午後を予定していた。従って私がガイドする必要もなさそうに思えたが、とにかく会って5/14はガイドしてほしいというので、出かけた。 近年建て直されてすっかり雰囲気が変わったパレスホテルのロビーで待つと、定刻にJが現れ、ソファで話していると奥さんのRもやがて合流。Jにとっては2度目の来日だが、とりあえず、浅草を案内してほしいというので出かける。一応浅草観光センターの8階に上がり、スカイツリー、Phillipe Starchのアサヒビールや浅草寺、カッパ橋などを上から説明するがスカイツリーなどにはあまり関心がない。仲見世を歩く。古くからの梅林堂、文扇堂、飯田屋やミニ玩具の助六など興味を示すが棚の写真を撮ろうとすると制止される。宝蔵門も近くで大きさに圧倒されて写真を撮っていたが、「2年前に再建された鉄とコンクリートの代物だよ」と余計なことを言ってしまう。しかし浅草寺の歴史などはJは読んで知っている。花やしき通りを歩いていると、突然「豆腐を作っているところを見たい」という。「豆腐は朝早く作るのでもうダメだろう」と言いながら、近くの店の人に聞くと、伝法院通りの東側に豆腐屋ならあるという。行ってみると小さな豆腐屋でガンモドキなどを売っている。野菜やシイタケ、銀杏だけしか入っていない豆腐だと知ると食べたいという。店の人も「そのまま食べても良いが、味はしないよ」とびっくりした様子。それでも食べたいというので3つ買って私も相伴になる。冷たいがそれなりに微かな風味もあり、食べられなくはない。 次にアメ横に行く。カバンに興味を示し娘のみやげにしたいと言ってスマホで写真を撮り始める。それをそのままイスラエルにいる娘のスマホに送る。娘がOKの返事をくれると買うという段取りだが、これはイスラエルでは普通のやり方だと言う。そう言えば2か月前に案内したHeziも写真を撮って息子に問い合わせていたことを思い出す。さすがユダヤ人は合理的と思ったが、まだ先方は早朝で寝ぼけているらしく、すぐに娘は返事をくれない。 魚を並べた露店が続く。ユダヤ教徒はコーシャー(Kosher)という教義の食物規定があって食べられるものが決められているという。ポークはダメだが、魚類も魚の形をしない貝、エビ、カニ、イカ、タコなどはダメだそうで、彼は店に並べられたものを見ながら、これはダメと指摘してくれる。たまたま昼過ぎになったので、ランチをということになった。制限はあるが、寿司は好きだというので、以前行ったことのある不忍池近くの「第2英鮨」というのに行ってみた。昼時なのに店内は閑散としている。980円のニギリ・ランチをとったが、主人に事情を言ってウニ、イクラ、エビ、イカ、タコなどを魚のネタに全部入れかえてくれるように頼むと気持ちよく了承してくれる。Rは最初箸がダメでフォークを使って奮闘していたが、そのうち何とか箸もこなし、結局、魚の味噌汁も含めて全て平らげた。実際イスラエルの家庭でも毎日のようにお米を食べ、娘さんの得意料理が寿司。ただ、野菜はキュウリだけでなくニンジン、アボカドなども使うという。 無人全自動運転のゆりかもめの話をすると、お台場へ行ってみたいというので出かける。ゆりかもめはハイテクと効率性などが日本そのもののイメージだという。海浜公園の人工砂浜を歩く。後ろから見るとJの首スジが日焼けで赤く腫れている。奥さんが気が付き、後ろから日焼け止めを塗るが痛々しい程だ。彼らの皮膚はとても敏感なようで大変だ。野球帽を反対にかぶり、少し日陰を作る。それでも「自由の女神」やレインボウブリッジの景色は見事だと見とれる。高架になった女神の前の広い道は前方にパリの凱旋門を模したビルに向かうような構造になっていて、パリを思い出すという。そう言えば「女神」との関連からパリ風のレイアウトにしたのかなとも思える。 クラシックカーの展示にも興味を示したので、MegaWeb Historyへ行ってみるがどういうわけか先日入れた大通り側の入口からは入れない。アウトレットに行きたいというRに答えて、Venus Fortの3階へ。Jと私がベンチで休んでいる少しの間Rは婦人用のLast Callという店に入って物色。気に入ったワンピースを試着して現れJに見せる。彼は「太って見えるから良くない」とはっきりいうと、彼女も素直にあきらめる。外で待っているとき、「3人の娘と奥さんの4人の女性に囲まれて『両手に花』どころか花園生活だね」と言うと「多数派に圧倒されて孤軍奮闘、大変だよ」と言う。でも娘たちは良い子たちだよと付け加えるのを忘れなかった。 最後に都庁展望台に行こうということになった。そのあとに彼らが友人に呼ばれている夕食会の時間が迫ってきたので、JR新宿駅から急いで都庁へ歩く。北側の展望台がすいているので、飛び乗る。今日はすっきりした青空なのだが、地平線の方はやはりボケている。でも富士山の輪郭は透けて見える感じで、彼らが数日前に箱根で見た富士を思い出しているようだった。そのまま新宿駅まで同行して夕食会への行き方を確認して暑い1日が終わった。 <次ページへ>
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