イタリア系のアメリカ人のLarry(47)と韓国系のアメリカ人Kelly(42)の夫婦。二人はニューヨーク、マンハッタン最北部に住みLarryは公立の高校で1日5時間、歴史を教える人気教師。一方Kellyは12才の時牧師をしている父がNYに転任になったのに同行して移住。NYで中学、高校、コロンビア大学と進み、大学院も出て、やはり近くの3400人の学生を抱えるカトリック系のManhattan Collegeで進路指導部長(Career Guidance Director)をしている。Manhattan Collegeは日本ではラサール高校などで知らせるラ・サール系(Lasallian)の学校とのこと。 旅館は浅草近くのカッパ橋通りの北端近くにあるので、まずカッパ橋通りを歩く。Kellyが早速弁当箱の専門店を見つけて、買いたいものがあるというが、まだ時間が早く開店していない。しかし夫のLarryはホッとした様子。半分冗談に「Kellyが買い物をし始めると時間がかかって大変だ」と言う。とにかくあとで戻ってくることにして食品のプラスチック・モデルの専門店を面白そうに徘徊。でも値段の高いことに驚く。 六区を歩いて、かつての歓楽街や吉原を説明。Larryは歴史の先生でもあり江戸時代のことも知っているので、浅草は非人(Social outcasts?)と差別された人たちが、死んだ牛馬の処理や罪人処刑の始末をさせられた場所で、今でも名残で靴屋や鞄屋が多いことを言うと周りを確認して納得していた。 本堂近くで、金の小仏像を隅田川で見つけたという、かなりいい加減な「浅草寺由来」を、根拠のないことだと断りながら、聞かせたせいか、その後しばらくしてLarryがトイレに行きたいという。なかなか出てこないのでKellyと話していると「彼はどうも下痢をしているようだ」とのこと。やっと出てきた彼にたまたま持ちあるいていた正露丸の小瓶の匂いをかがせて「飲むか?」と聞くと、「飲む」という。Kellyも韓国生まれのせいか、正露丸の匂いに覚えがあるとようだ。結局それでそのあとすっかり調子が戻ったので彼は喜んでいた。 再び仲見世を逆方向に進む。途中ミニチュアの人形専門店「助六」に案内。Kellyはすっかり感動して歓声をあげながらゆっくり見る。結局友人と自分自身へのおみやげに小さな人形を3つ8,800円も払って買う。1つは「必勝」と書かれたハチマキをしたネズミ顔の人形が机の前で筆をとって勉強している姿。これは彼女の人生を象徴しているとLarry。もう1つは頭に載せたタコの足が顔に絡みついた人形だった。彼女はよっぽどその店が気に入ったようで、そのあと偶然出くわした同じグループの外人にも「是非行ってごらん」と勧めていた。 銀座線で銀座へ。地下鉄内でも携帯が使えるので、途中例によって私のiPhone のWiFiを利用して2人とも自分のスマホでメールチェック。メールの返事まですばやく済ませて、忙しい立場の彼らはホッとした様子で喜ぶ。 銀座4丁目の交差点では、ニューヨークの人たちなので、「ここは5番街と34番ストリートの交差点だよ」というとすんなり納得。突然思い出したかのように、Kellyがスターバックスは近くにないかと言う。妹か誰かが世界中のスターバックスのカップを蒐集しているのだそうだ。早速有楽町駅北側のスターバックスに入る。確かに店内の棚にはTOKYOとStarbucksという語が目立つカップが並んでいて、その土地でしか買えないカップを販売している。 皇居へ向かう。道すがらLarryが最初、靖国神社に行きたいと言っていて取り下げたことを話題にする。当然韓国との歴史認識の問題には触れない方が良いと考えたのかもしれないが、「靖国合祀の問題や竹島問題も日本人全部が同じ考えということではなく、意見は分かれている」というと、韓国生まれのKellyがびっくりしたように「日本人はみな政府見解と同じ考えだと思っていた」と言う。 Kellyが蚊に刺されたと訴える。男ども2人はさっぱりやられないのに「蚊によほど好かれているんだな」とLarryがからかいながら、彼女が持っていた防虫スプレーをかける。でもLarryに言わせると2人でいていつもやられるのはKellyだけだそうで、何も珍しいことではないという感じ。 東御苑に入る。日本庭園に行くとサルスベリが満開。何とLarryが「あれはサクラか?」と聞く。サルスベリの英語が出てこないので、例によって我々はMonkey-slipping treeと呼ぶとごまかす。でもツルツルした幹を確認すると、その方がピンとくるようだ。江戸城址へ昇る。日本史にも通じているLarryは「江戸時代260年間、ここから日本全土を支配したのか」と感無量の様子。Kellyはやや疲れた様子。ときどき座って休みたいと言う。聞くと、最近疲れがひどいので、医者に行っているともいう。今回の旅行でも事前に医者に相談し「ときどき休めば行っても大丈夫」と言われてきたそうだ。もう2時も回っていたので、エネルギー不足もあるかと思い、食事をしてみたら? と聞く。先ほどから日本は物価が高いという話題が上がっていたので、では安い所を紹介しようと、大手町寄りの東京駅線路下の小さな店へ。牛丼が290円。ボリュームもあり味も気に入ったようで、私が半分も食べないうちに2人ともすっかり食べつくしていた。タダで出される冷たい緑茶も好評。さっきは下痢だったLarryも何杯もおかわりをする。 身の上話もしてくれる。Larryの両親はイタリア南端の田舎からカナダに移住し、苦労してアメリカに入り、建設現場の労働者として苦労したので、息子には教育を受けさせようとお金のかかるカトリック系の学校に通わせてくれたという。アメリカでは、ホテルのように5つ星から1つ星までランクわけして教師を評価をするサイトがあり、彼はいつも5つ星だ。しかし評価はあまり正確ではなく、同じ生徒が何度も評価を提出したり、厳しい教師だと評価が下がる傾向もあるそうだ。しかし彼は夢にまで生徒が出てきて、寝ても覚めても生徒のことを考え、これからの授業の作戦を考えていて、常に新しい挑戦をしている様子が分かる。 一方Kellyも責任の重い立場で、神経を使うと言う。リーマンショック以前は比較的楽だった就職状況も、ショック後は学生の就職が異常に厳しくなり、彼女が中心になって新しい企画も進めているという。例えばインターン制度と言って、特定の企業と連携して、在学中から学生を見習いとして送り込み、信頼を得て(何人かを)そのまま採用してもらうプログラムもどんどん増やしているそうだ。 エネルギー源が入ったのでJRで原宿へ。明治神宮の参道を歩く。日本語が覚えられないというので、彼らの居る「上野」はWe knowと覚えなさいと教える。その他よく言われる「ありがとう」(Alligator)をCrocodileと間違えるなとか、「おはよう」(Ohio)、「新宿」(sin duke)、「立川」(touch coward)なども話題にする。 本殿前ではうまい具合に結婚式の行列に会う。実は彼らも長い付き合いの後、丁度1か月前に韓国で韓国の衣装で結婚式をすませたと言う。それを思い出すと2人は今日は1か月目の記念日だというので目の前でキス。お互いに祝福した。 Larryは大のNYヤンキースのファン。旅行するといろいろの場所で野球のユニフォームを求めてきて、それを着て教室に現れ、生徒を沸かせるそうだ。東京でも読売ジャイアンツのユニフォームを買いたいという。しかしその場でネットで調べてジャイアンツのユニフォームの写真を見せるとサンフランシスコ・ジャイアンツのものとひどく似ているので、これでは面白くないという。東京は「ヤクルト・スワローズ」の本拠地でもあることを知っている彼は、「ではヤクルト・スワローズのユニフォームはないか?」 と言う。ネットで見るとヤクルトの本拠地「神宮球場」内の売店で販売していることが分かるが、平日は午後3時には閉店とある。すでに3時をまわっているので、他を探していて、球場近くのファミリー・マートで扱っていることが分かり、早速出かける。「外苑前」へ行き、それらしいコンビニに飛び込む。店頭には置いていないが、倉庫には確保してあり、店員はすぐに取り出してくれた。1つのサイズしかなく、大柄の彼にはちょっときついかなと思ったが試着すると何とか着れたので一応OK。すでに選手の名前が「館山」と入っていて7,000円。ちょっと高いが満足して購入。生徒を喜ばせるのにもお金がかかる。 外に出ると少し先に神宮球場の照明塔が突き出して見える。今度来日した時にはここでこれを着て応援するんだと張り切る。しかし今日はKellyの疲れが限界に来たようなので、ここでガイドは終わることにする。「外苑前」から上野経由で入谷に行く方法を確認して別れる。別れ際に、「『上野』」で乗り換えることを忘れるな」と大声を出すと「We know!」と笑顔で返してきた。
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イタリアはジェノアの近くAcqui Termeの英語学校(British Institute)ですでに27年も英語を教えている女性Grazia(49)さん。Applicationでは自分たちで東京の有名な名所は全部自分で回るので、旅行者があまり行かないところを案内してほしい...とのことだった。たまたま8/23に柴又の帝釈天で夏祭りの盆踊りがあるのを見つけたので提案したら、喜んだ。しかし一緒に旅行していたすぐ下の妹さんが、子供を預けてきた先の都合で早く帰国することになったので、妹さんを成田に送ったあとの8/21午後もGraziaさんだけをガイドしてくれないかとの追加注文が入り、1日半のガイドになった。 8/21(水) 名所は全部自分で見ておくとのことだったが、会ってみると近くの上野付近もまだ行っていないというので、まず上野へ。とにかく暑いのでウチワを使いながらアメ横を歩く。魚介類に興味を示す。石のような干しカツオの側にカンナを置いてそれを削るデモをしている様子を写真に収めて、すぐ裏の徳大寺へ上がる。ここで神道と仏教の話になり、特にいつもと変わったこともないが、しばらく質疑応答。何しろ自分で企画する世界冒険ツアーのリーダーとして60ヶ国以上も見てきている人だけあって好奇心旺盛。不忍池の淵に出てハスの花があちこちに見えてきてやっとリラックスする。近くの下町風俗博物館へ入る。一昔前の生活用品にじかに触れてもらいながら、商家や長屋のライフスタイルを細かく説明していく。和風旅館にも泊まったことがあり、和式トイレも快適だという彼女でも、蚊帳、湯たんぽ、コタツ、神棚、畳の構造、桐のタンスの湿気防止の知恵などは興味を引く。 清水、花園稲荷、大仏、東照宮と来て、国立博物館が見えるとガイドと一緒に是非入りたいという。英文の説明をあまり読む気がないようなので、大したことを言えなくても、説明せざるを得ない。土器、埴輪から始まって仏像、書、屏風絵、絵巻、水墨画、茶器、塗り物、刀剣鎧兜、浮世絵、着物などで気が付くことをかってにかってに取り上げながら雑談して進む。外が見えるところに来ると、ものすごい夕立。ミュージアム・ショップでも時間を使いながら雨が止むのを待つ。 やがて雨が上がり、浅草へ。次の日に能楽堂へ行きたいというので、「観光センター」で予約をしようと調べてもらうが、その前後の日は公演がないことが分かり断念。すでに浅草寺は自分でも見ていたようだったが、何と「イザカヤ」へ行きたいというので六区の北側の居酒屋に入る。枝豆を食べたことがないとのことで注文、煮込みや焼き鳥に生ビールで乾杯。外人のお客も多いようで、ウェイトレスも英語が少し分かる中国系の女性。食べ物の話になる。ジェノアの北にある彼女が住む小さな村の郷土料理、バーニャ・カウダ(Bagna cauda)というのを日本のいろいろなところで見つけたと驚く。フォンデュに似た食べ方の料理で、フォンデュのチーズの代わりに独特のソースが真ん中に置かれ、それに野菜を浸して食べるのだそうだ。「安全」も関心事で、日本では、ジーパンの尻のポケットから半分財布が覗いている状態で若者が歩いているのが彼女には不思議に写るという。イタリアだったら男性の若者でも5分以内にやられてしまうとのこと。雨のあとで外は少し爽やか。そのまま田原町の地下鉄駅までおくって別れる。 8/23(金) 魚市場へ行きたいというので、8:30amにホテルのロビーで会う。築地場内ではマグロが電動ノコギリで切断される様子や、セリが行われるホールの写真も撮っていた。場内にある長い行列が出来る店「寿司大」や「大和寿司」がLonely Planetの記事のおかげで人気が出ている事情を説明しながら外へ。まだお腹が空かないというので、そのまま浜離宮へ歩く。巨大な盆栽のような形の松にも驚く。ここでもサルスベリが見事に満開で、やはり「サクラか?」と聞かれる。中島の茶屋はガラガラなので一服。彼女の希望で、近くに居た若い日本人女性に頼んで一緒に赤じゅうたん上で写真を撮ってもらう。その女性がストッキングをつけているのに気が付いた彼女、直後に「なぜ日本人女性はこのジメジメしたひどい暑さの中でストッキングなどはくのか? 苦痛じゃないのか?」と私に聞く。実際彼女は裸足で鼻緒の付いたサンダル履きで動き回る。小さな砂利の道ではサンダルでも小石が足の下に入りこむが、それはあまり気にならないようだ。 そのまま銀座を歩き、JR有楽町から渋谷へ。彼女はハチ公の映画(Hachi)も見ていてよく知っている。だが、ハチ公の銅像自身は多くの中国人観光客が取り囲み、2〜3人ずつ写真を撮りながら占領し続けているので、スクランブル交差点へ行き、写真を撮る。109と「トーキュー」の説明をしながら、スペイン坂へ。どういうわけか名前に反してイタリア料理店が目立つ。ソバを食べたいというので、近くのソバ屋へ。食券自販機がある店で、この機械は日本語の分からない外人には鬼門のようだ。ボタンがありすぎて私もちょっと手を焼く。でも玉ねぎとカマボコのソバが330円で彼女も安いのに驚く。 食べながら彼女の旅行経験を聞く。ツアリーダーで行った中国のシルクロードの旅で、バスが山に衝突して、彼女も顔に重傷を負ったことがあるという。即現地の中国で入院。左目の周りの肉や骨が砕けていて、現地で復元手術し、何とか帰国できるだけの体力を回復させるのに10日以上かかったとか。新聞でも取り上げられて、中国人記者がインタビューに来る。「今一番困っているのは何ですか?」というので「箸だ」と言っても、スプーンがなかなか出てこなかったという。 またイタリアの英語教育の話もしてくれる。イタリアの英語教育熱はやはりものすごいという。イタリア人でも英語を理解し使えないと仕事にも差し支えるらしい。彼女の経営している語学学校は300もの分校を持つ組織の1校で、彼女が経営者。18人の講師(西、独、仏、伊の1名ずつを除いて他は全て英語講師)を雇い、350人の生徒を教える。小学生や中学生も来ているが親の要望や圧力が強い割には、シツケがほとんどされていなくて、まるでアニマルですよ...と言う。 そのあと原宿へ。明治神宮の絵馬を説明しているとものすごい豪雨。本殿の屋根の下に退避。でも雨の飛沫が南風で吹き込む。驚いたことに本殿の中を見ると、結婚式の行列が横切っていく。さすがにこの豪雨では庭には行けないが、ちゃんと予定をこなしている。警備員は我々が雨に吹き付けられていても、脇の場所を開けて退避の場所を融通するどころが、「前に寄りかかるな」とか「写真を撮るな」とか非常に冷酷・横柄でみな怒り、あきれる。 竹下通りからデザイン・フェスタへ出て、190円のエスプレッソで休憩。そのあとオリエンタル・バザールへ。アンティーク(?)の金属製灯篭に関心が向くが、浮世絵の売り場にも引かれる。広重と同時代のオリジナルでも2万から250万と値段の開きがある。理由を聞くと「構図、構成」だと言う。一方新しい複製でも8千から2万と開きがあるのも同じだという。店主によれば古いオリジナルでも2000円というのもあるのだそうだ。でも安いのは素人が見ても確かにきれいではない。店主によれば、もう作っている人がほとんどなく、売る作品がないのだそうで、やがて廃業だとこぼしていた。 原宿へ戻り今度は西日暮里から金町へ。さらに乗り換えて柴又駅へ。最初は「矢切の渡し」に案内することを考えていたが、大雨だし、時間も遅くなったので、帝釈天へ直行。駅前に「寅さん」の銅像があり、その背景を説明しながら、薄暗い参道を境内へ。境内には盆踊りのヤグラが組んであり、太鼓と音楽が流れ、それを囲んで地元の人たちが浴衣姿で踊っている。やがて和服姿の師匠が壇上に現れ、みなに踊りを手ほどきする。単純な動きに見える動作でも実際に演じるのは大変。Graziaさんも手マネ足マネでやっていたが、左腕に右手を当てて、そのまま左腕を真上に立てる動作をしているときに、「これはイタリアではやらない」と言う。よく聞くと、この動作はbody languageでは俗語で言う"I'll screw you up"の意味になるのだそうだ。ちょっとした動作でも国民性が違うと、とんでもない誤解のもとになる可能性があるのだと改めて思った。でも、「ここは表参道からは想像もできない別世界ですね。同じ東京とは思えない」と感激。心なしか、帰りに駅近くの寿司屋でおごってもらった1,200円の寿司は築地よりもうまく、量も多いようだった。
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