長年のガイドで初めてインドネシア人を案内した。インドネシア人も日本人のように団体旅行が主流で、個人旅行は例外なのだそうだ。ジャカルタで大きな物流会社(PT Aspac International Logistics)の部長Duriat(50)とその部下Imelda(38)の2人。名古屋近くの三河安城のバイク販売店がジャカルタに店を出すというので、商品のバイク搬送を請け負い、その打ち合わせが主な目的。 その日の朝9:00に成田に着き、11:30に浅草のホテルで落ち合う段取りになっていた。少し前にホテルに着いたら彼らはまだ来ていなかったので、浅草駅方面に引き返して歩いていると、それらしい2人が来るのが見えた。メイルで成田---浅草間は乗り換えなしの京成スカイアクセスの直通電車があるので、それを勧め、JRパスを持っている場合の東京駅経由のルートも詳しく書いておいたのだが、彼らはJRパスを発行してもらっているのに、より簡単な京成ルートで来たという。 Imeldaは秘書兼友人といった感じで、メイルの連絡、旅程の手配から記録など全てこなしている。Duriatは気さくな上司といった風で、彼の名前が何となく果物のドリアンのようにも聞こえるので、笑いながらドリアンと呼ぼうかということになる。現金は全てドリアンが管理していて、必要に応じてImeldaがお伺いをたてて札を受け取って処理する。ホテルは二天門から遠くないところ。まずその門から浅草寺境内へ入り、本堂や五重塔、他の諸堂を回る。おみくじはやり方を説明して、出てきた棒の番号の引き出しを試しに開けると「吉」の字が見えたので、100円払って買うことにする。成田に到着後何も食べていないというので、レストランを探す。伝法院通りを歩くとアイスクリーム屋が彼らの目に留まる。辛党の2人だが、アイスクリームは例外で、まず抹茶のアイスが食べたいという。その後新仲見世あたりで回転寿司に入る。初めてというので要領を教える。Duriatは何でもパクパク。一方Imeldaは小食。マグロは何とかゆっくり食べるが、タコやイカは実際の姿を思い浮かべてしまうのでイメージが邪魔をして、どうしても食べられないとのこと。ダシ巻き卵の他はメロンなどデザートだけ。 銀座線と千代田線を乗り継いで原宿へ。車中が長いので私のiPhoneのWiFiを使ってImeldaはメイルチェック。Duriatは自分でもネットへつながるサムソンのスマホとBlackberryの携帯を持っている。彼は忙しい人で、電車に乗っていてもジャカルタからどんどん電話がかかってくる。日本では車中の電話対応はできないので注意する。かかってきた電話は短く切り、外へ出た時にこちらから再度かけている。Duriatは自分に届くメイルのいくつかをImeldaにその場で転送し、電車の中でもその返信にImeldaは一生懸命。 明治神宮。快晴で夏のような日照りの中、白装束の花嫁とその集団が写真を撮っている。七五三の赤い着物の子供たちもチラホラ見える。休憩所で一休み。ペットボトルの水で喉を潤す。インドネシアの貨幣単位ルピアは円の110倍以上なので値段を比較するのがややこしい。でもボトル入りの水の値段は日本の半分くらいらしいことは分かる。彼らの会社は8,000トン級の船を6隻も所有していて、東南アジア諸国、韓国、台湾、豪州などにパームオイルや鉱石類、化学合成製品などを運搬しているのだが、日本はどういうわけか初めてとのこと。Vesselという語を「フェッスル」のように発音するので、何度も聞き返してしまった。 竹下通り。やはり百均に関心がある。母親と暮らすImeldaは母に抹茶を、姪にと言ってハローキティのキャンディを買う。抹茶のKitKatがないかというので聞いてみると地下売り場にあるという。しかし行ってそこで聞くと「ない」という。表参道裏道を歩き、地下鉄で表参道---青山一丁目---都庁前と乗って、都庁展望台へ。「10/19(土)は設備点検で展望台は終日閉鎖」の看板がある。「2020オリンピック」の看板が目につき、祝福される。「生きてたらご案内しましょう」と笑う。展望台からスカイツリー、神宮の森など今日の行程の目印を指摘すると、彼はそれらに向けてシャッターを切る。 新宿駅へ歩く。明日富士山へ行きたいというので、みどりの窓口で切符を手配しようとするが、3連休の初日なのでJRの朝の電車は満席。長距離バスはいやだというので、あきらめ、明日夕方向かう予定の「三河安城」までの切符を購入。明日は自分たちで皇居や秋葉原を回るというので、行き方を確認。 最後の予定地の上野へ。途中東京駅へ寄り、明日の新幹線乗り場を確認。上野へ着くと、「かなり疲れたので、夕食を共にして終わりにしたい」とのこと。ポークとビーフはダメだが、ご飯が食べたいとのことで、カニとエビのチャーハンを出す店を見つけて注文。ここでもDuriatはペロリでImeldaは半分で満腹。食後、浅草まで送り、ホテルへ通じる道で方向を確認して別れる。
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この件はガイドを頼むかどうかで依頼者2人の間で意見が合わないうちに一方の人が申し込んできたようで、メイル交換を始めたころは情報提供だけを求めている様子で始まった。だからガイドをしても2~3時間ということだったのが、結局1日頼むということになった。 Alida(33)はパナマ生まれだが、当時のノリエガ大統領の圧政を逃れて親戚のいるアメリカへ一家が移住したのが彼女が7才のとき。その後国内の治安が安定してきて、義理の伯父がパナマの政府高官から呼び戻されたこともあって、一家はパナマに戻り、彼女も14才までパナマで過ごす。しかしすでにアメリカの永住権は取っていて、教育はアメリカで受けたいとの思いもあって、高校途中で再度彼女だけフロリダに戻り、フロリダ州立大学へ進んで財政学(finance)を専攻し、卒業後メリル・リンチへ就職。そこで同僚であるイタリア系アメリカ人の現在の夫と結婚。4才の息子がいる。現在も同じ職場に夫がいて、今度の来日に当たっても彼が彼女の仕事も肩代わりしてくれて、母親も育児の手伝いに来てくれて、出やすかったそうだ。 一方Joemil(33)はベネズエラの出身。チャペス大統領は暴君で反対者はみな殺していくと言う。厳しい圧政を敷かれて、やはり一家で逃げ出しアメリカへ移住。Alidaとはフロリダ州立大学の同じ専攻で知り合い、それ以来の親友。彼女はドイツ銀行に就職したが、まだ独身。両親は故国には戻らず、ワシントン州に移っているそうだ。 時間通りにホテルのロビーで会う。写真も送ってあったので、先方から声をかけてくれた。ホテルは芝、増上寺の裏手にある。浜松町まで歩くことにして、お寺の付近の道を歩きながら、徳川家の菩提寺で、15人中の6人の将軍などが埋められている増上寺の由来を、上野の寛永寺と比較しながら話す。 Joemilは朝食がまだだという。目玉焼き2個にソーセージかハムが付いたものがほしいと言う。近くの吉野家で聞いてみたら目玉焼き1つにソーセージなら100円で作るというので、それを取る。すでに彼女たちは昨日は自分たちで動いていて、メイルで案内しておいた通りに、4時起きで築地のセリを見て、そのあと歌舞伎の一幕物も見たとのこと。 今日はまず皇居を見たいというので、東京駅へ。二重橋で写真を撮り、東御苑へ。遅咲きのサクラがまだ花をつけている。フロリダの彼女の家の庭にも桜が2本植わっていて花を咲かせるとか。竹林を見せると、それもお気に入りのようで自分でも庭に竹を植えたいのだが、根が伸びすぎると大変だと知って、躊躇しているらしい。ショウブやツツジのことも聞く。また大きな椰子の木や小豆島のオリーブの木などもあるのを見て、日本にあるとは...と驚く。 上野へ。果物がほしいというので、アメ横へ。早速パイナップルやメロンの串刺しを立ち食い。上野公園に出て鬼門の寛永寺、裏鬼門の増上寺を再度復習。パンダにも興味があるようだったが、時間がないので動物園は省略。お昼を過ぎたので、ラーメン屋へ。Alidaは自称「80%ベジタリアン」と言うので、20%は肉でも良いのかな...と言いながら、豚骨スープのネギ・ラーメンを注文。彼らはよくチキンのラーメンがないかというが、即席麺は別にして、店ではあまり見かけないような気がするがどうだろうか。 エネルギー源が入ったので、浅草へ。おみやげを漁る。Joemilはマグネットの付いた装飾ピン、コケシ。Alidaは息子に子供用のハッピ、自分にユカタ。羽織はないかと言うが、それはここでは無理。買ったのを試着してみて満足そう。おみくじは普通に挑戦。Alidaは吉が出て、「結婚は頑張れば叶う」とあり、その通りになったと言う。一方Joemilは凶が出て、ちょっと読んだら人に見せず、言ってあったように、すぐに針金に結び付ける。 本堂から六区の方に歩く。江戸時代の浅草の特殊な地位。吉原が日本橋から浅草に移転し、浅草寺が吉原と関係づけられるようになる経緯を言う。昔ながらのゴチャゴチャした細い通りに彼らはカメラを向ける。 スターバックスで一休み雑談。Alidaのメリル・リンチは顧客の資産管理を社員に個人的に割り当てて長期にわたって顧客と個人的関係で信用を作っていく仕組みのようだ。社員によっては150人も抱える人もいるが、Alidaは70人の顧客を抱えていて、それぞれの希望に応じて資産運用を手伝うそうだ。そのとき社員だけがアクセスできる貴重な情報源が会社にあり、それに自分の専門判断を加えて顧客に有利に働くようにできるので信頼が生まれるようだ。 外に出ると目の前に例のフィリップ・スタークの炎のオブジェ。Burning heart of Asahi beer companyを象徴したということになっているが、Golden turdの方がピンとくるし、本社もpoo buildingの方が実感があると笑う。 原宿へ。明治神宮は4時閉門だが、少し前に滑り込む。遅いので結婚式はない。菊の展示が始まりかけている。野生の菊だと小さな目立たない花なのに、日本人はどういうわけか手を加えてこれだけのものに変化させると言いながら、ルース・ベネディクトの「菊と刀」を思い出し、アメリカ人にもこの点に注目した人がいることを少し説明。本堂の向こうからは大きな太鼓の音が響き渡る。8時と2時だけだと思ったら、4時過ぎなのに聞こえて来た。 Joemilはかなり疲れた様子。でもあと一息というわけで、竹下通りを歩く。Alidaはあとでもう1度来てみたいと言う。Design Festaへ案内してほしいともいうので、そのまま進む。装飾が独特なので、暗くなったあとの照明のもとでも異様な雰囲気になる。そのまま裏に抜けて、裏通りから表参道ヒルズの前に出て、ジャイル(Gyre)やオリエンタル・バザールを説明する。Alidaはまだもう少しその付近を歩きたいと言い、Joemilは疲れてホテルへ戻りたいというので、そこでそれぞれ別れを告げた。
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