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風光明媚なたたずまいの中に宿泊施設が点在するとき、景色だけでは人を引きつける魅力にはならない。小さなBBやモテルでも、何とか他と違う魅力を創り出そうとする。安くするのは手っ取り早いが痛みもあり、面白くないのだろう。例えば、1家族だけしか泊めないが、ベッドルームは複数にし、バーべキュなどもできるようにして細かい面倒見の良さを売りに出したりする場合もある。海の近くだと、大きな魚を釣りにボートで案内したり、ダイビングに連れて行って教えたり、付近の自然を案内したり、いろいろなサービスを実行しているところもある。 NorthlandのWhangareiという湾沿いの景色のいい場所にあるBBで、すばらしい景色を堪能した次の日、車でかなり進んだときに、家内が上着を忘れてきたと言い出した。2日後に再び近くを通ることになったので、電話をしたら、確保してあるという。早速立ち寄った。その時BBの主人のMurrayさんが「今夜の宿は確保してあるの?」と聞く。もう4時を回っていたが、「まだだ」というと「自分たちがこの間泊まって良かったところがあるけど、どうか」と親切心から言ってくれた。2時間くらい先なので、暗くなるのがちょっと心配だったが、「頼む」というと携帯ですぐに連絡をとってくれてOKだというので、そこに決めた。 そこは少し南のWarkworthの東海岸で、BBの案内書などにもいろいろ出ているところ。一人朝食(cooked breakfast)付でNZ$75(4500円)。でも行ってみて驚いた。着いたときはすでに暗くなっていて、海辺とはいっても、やっと探した不気味な木々の茂った間の急な泥道を上がっていく。2分くらい登ったところの暗いところに大きな家が見え、呼び鈴を押すと女主人が笑顔で出迎えてくれた。 しかし入ってみてびっくりした。結構豪華版なのだ。地中海沿岸のカサブランカ、つまり白壁の家をモデルに考えたという。でもここニュージーランドにしかないキャベツ・ツリーという小さな椰子の木のような植物をまわりに配置していた。部屋の中もかなり凝っていた。室内もコテの跡を不規則に残した一面の白壁、大きな節目がたくさん入った厚い板のドアには黒い鉄製の時代ものの取っ手、シャワー室の銅版の床、真ちゅう製の妙なデザインの蛇口、室内一面に埋め込まれた薄茶色の濃淡のある大きなタイル床、柳細工のテーブルとソファ、キャンバス地のカーテン、それをとめるカーテン留めは人の顔ほどもの大きさの貝やヒトデがデザインされている。普通ならクリーム色の壁の電気スイッチ板は、真っ黒。テーブルには背の高い金色の花瓶に30本もの菊、巾の広いむき出しの木枠付きの鏡や壁の絵画。その絵には茶色の瓦と白壁の家、それに赤い小さな花が咲き乱れる草原のかなたに見える小さな教会が描かれている。翌朝、ガラスのフレンチドアを開いてベランダに出ると、木々の向こうに大きく広がる湾と対岸の緑が目に入った。ベランダは大谷石のような荒い石造りで、枯れかけた素朴な柱が無造作に組み合わせてある。青銅の足がついた陶器の巨大な植木鉢から盛り上がるように生えた熱帯風の大きな葉が揺れる。色あせたテーブルの上に、靴が片方。よく見ると銅製の花瓶であった。これだけのぜいたく品があっても、テレビはなかった。そしてキングサイズのベッドなのに電気毛布もなかった。代わりに湯たんぽ、(といっても昔のゴムの水枕のような、青い色のゴム袋で、お湯を出し入れする口はコルクの栓のようなものが付いていたが)を用意してくれた。それを布の袋に入れるでもなく、そのまま、じかに足のところに入れる。 どうも彼らのぜい沢とは変わった雰囲気を楽しむことらしい。その雰囲気に浸かる経験にお金を払う。機能だけの宿泊施設との違いである。我々の他にもう1組のお客があり、ニュージーランド人の年配者夫婦であったが、ゆっくりとその独特の空気の中につかり、女主人と談笑しながら時間を過ごしていた。ここのご主人はニュージーランド航空の国際線パイロットで、丁度仕事でハワイに行っていて留守であった。奥さんは「またvacationに行くのね」といって夫を送り出して、自分はBBの経営者の役割を果たす。彼女はアイルランドの出身で、ドイツでホテル経営を学び、親と一緒にこの地に帰化したそうだ。だから料理などの手さばきも見事だし、客をもてなすのが楽しみのようだ。ここのホームページはwww.lodgings.co.nz/saltings.html なので興味をお感じの向きは開いてみてください。 1階は全部ゲストの部屋になっているが、2階はTerryさんMaureenさん夫妻の居住する場所になっている。しかし2階に食堂もあり、お客もそこで朝食をとる。お皿の類も芸術的なデザインで全部同じ模様になっている。Continentalではなく、cooked breakfastなので、卵やソーセージなどの焼き方を1人ずつ聞いていきながら手早く作っては運んでくるが、その手さばきはさすが慣れたものである。食堂から隣の居間をのぞくと、アンティーク調の家具で揃えた広々した空間は、ヨーロッパの宮殿のようであるが、こんなところに夫婦2人だけの生活ではやはりもったいないし、寂しいので、BBを始めたのかとも思えた。 骨董BB(?)の部屋には台所などはなかった。最初ここに着いたとき、遅くなることが分かっていたので、前もって中華料理の酢豚のようなものをTake-awayとして作ってもらい持ち込んでいた。キッチンがあると思ったので、そこで暖めて、スープやパンなどと一緒に食べるつもりだった。しかし意外な場所だったので、Maureenさんに事情を言うと、すぐに2階の台所で暖めてくれ、スープも作って一緒に出してくれ、となりの食堂でゆっくり食べさせてくれた。親切心からそうしてもらったようでもあるが、彼女にしてみれば、あの王宮のような部屋へ食事を持ち込まれては大変だという気持ちがあっただろうとは容易に想像が付く。でもいろいろ余分なサービスをしてもらったので、帰るときにチップを少し置いてきた。 |
バイオに世界の関心が向いて、どこの国の入国でも、検疫が細かくなっているのかもしれないが、自然を大事にするニュージーランドでは、動植物の持込で、特に変な菌や種が入りこんでは大変だというので、神経質になっているようだ。入国の時の検疫の書類で、「ドライフルーツの持ち込みも届けなければならない」とあった。こんなのは今まで経験のないことであったが、不法に持ち込んだことがバレたら、その場で1万円の罰金、起訴されて裁判になった場合の最高額は500万円の罰金とあったので、もっていた食用の杏のドライフルーツを書いて届けてみた。よく分からない場合でも、届ければ、別の窓口にまわることになるので、そんなものはわざわざ届ける人はまれのようだったが、対応した係員は笑顔で気持ちよく対応して安心させてくれた。また「キャンプ用の靴やスポーツシューズで、過去何日かの間他国の牧場の草の上を歩かなかったか」などという質問もあり、牧場で靴のウラについた種や菌が持ち込まれるのをチェックしていたのには驚いた。道路を運転しているとpossumと呼ばれるモグラのような動物がよく車にひかれている。それを食べにカラスのような鳥が群がり、その鳥をまた100キロ以上でとばす車がはねるという具合に犠牲は増えていく。が、このpossumにしたところで、もともとヨーロッパから持ち込まれて、今ではこの国の羊の数以上に繁殖して困っているようである。 向こうのテレビコマーシャルで印象に残ったのがあった。若い男が喫茶店か何かでコーヒーを飲んでいる。すると突然近くのテーブルの上に置かれた携帯電話のブザーが鳴る。しかしその持ち主はちょっと席をはずしている。またブザーがなる。いらいらした若者はその携帯をそばの水が入ったコップの中にドブン。すると携帯は泡を立てて、静けさがもどり、彼はゆっくりとコーヒーを飲み始める。その時携帯の持ち主が戻ってきてびっくり。ドブンした若者は何食わぬ顔でサッと席を立つ。これ、コーヒーの宣伝でした。日本だと携帯の愛好家が多くて袋たたきにあいそうなコマーシャルだが、携帯の便利さより、静かな平和を好む土地柄には快いコマーシャルだ。 北島のロトルアはニュージーランドの別府。マオリ族のガイドに連れられて地獄めぐりをして、ついでに温泉に入ってきた。外国の温泉はどこでも水着を着けて入り、温泉プールもあって泳ぐ仕組み。露天風呂といっても、深山幽谷の雰囲気があるわけでもなく、6畳くらいの四角いお風呂が十数個並んでいて、それが38度から43度まで、温度で区別してあるだけである。ドイツのミュンヘンからきたという新婚の夫婦が我々が入っている42度のお風呂に入ってきた。身動きもせず、じっと熱さを我慢している様子。聞いてみると普段は38度に入っているという。日本人には丁度いい温度だと言うと信じられないという風だった。日本でもいくつもの湯船が並んでいる温泉はあるが、一つ違うのは、湯船と湯船の間には、どこも高さ50くらいの塀のようなものがあることだ。隣や向こうの湯船が見えない。プライバシー保護の習慣かもしれないし、多くの人の視線がない方がリラックスできるということか。 またロトルアから遠くないあるモテルで温泉付きと書かれていたので、入ってみた。夜、宿の主人に聞くと、小さなプールの裏の方に案内された。見ると2〜3人しか入れないプラスチック製の、きれいでない湯船の中で、塩素入りの、生ぬるいお湯が回転していた。誰も入っていない。物好きな話だが、裸電球が上に一つ点いているだけのプールわきで、寒風にさらされながら水着をつけて一人で入ってみた。落ち葉が浮いているが、風流なんてもんじゃない。日本語で「温泉」というイメージからは考えられない惨めなものだった。
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