オフシーズン
梅雨とワールドカップ過熱フィーバーから退避することも考えて、6月3日にニュージーランドへ発って16日ほどかけて南北の島を3100キロほどハンドルを握って走り回ってきた。JALのスーパー悟空で2ヶ月前に単純往復の航空券をとると往復8万だったが、往路をクライストチャーチに降り、復路をオークランドから成田行きに乗るとどういうわけか5000円アップになった。
最初は本やインターネットなどを見ていて、南島の西海岸の原始林のなかに自分でロッジを建ててビジターに自然の生活を体験させているニュージーランド人の記事を読んだ。彼らは森の中の水の流れを利用して自家発電し、廃棄物も自分で完全処理して自然と調和した生活をしているという。これを訪ねてみようと思って原生林対応(?)の完全防水の靴や防寒具を買った。直接電話してみると、不運にも冬場の6〜7月は閉鎖しているという。仕方なく普通の農場などのファームステイなどに切り替えた。
またクライストチャーチから南端のインバーカーギルまで1日1本の特急列車があると聞いて調べたら、これも冬場だけでなく採算が取れず、今年の2月に打ち切りがきまったという。
実際、飛行機がクライストチャーチに着陸する直前の10分間くらい、眼下に広がる南島の3000メートル級の山が連なるアルプス山脈が一面真っ白なのを見ていると、来る時期を間違えたかなとも思った。しかし逆に雪をかぶって聳え立つ峰が真っ青な空を突き破るようにして連なるさまは息を呑むような感動を与えてくれる。6月4日朝のクライストチャーチの気温は摂氏1度であった。湿度はそんなに低くないせいかそれでもそう寒いとも思わない。ニュージーランド1,2を争う国際空港も旅客が到着すると一時的に賑わうが、しばらくするとガランとして、空港内の銀行の窓口もブラインドを下ろしてしまう。
オフシーズンの旅というのはへそ曲がりの気まぐれと思われるかもしれないが、利点もある。まず航空運賃、宿泊代などがピーク時の2/3くらいになる。実際今回の旅で泊まったBB、モテル、ホテルでも(朝食がつかない場合もあるが)、1人1泊に換算するとほとんど40ドル(2400円)前後で景色のすばらしい宿で充分快適に過ごせるし、モテルの場合は完全な台所が着いていて、たいてい寝室が2つあって4-5人も寝られる上に、ストーブはもちろん、電気毛布も全てのベッドに備えられていた。だから、その場合は部屋(room)をかりると言わずに、(2LDKの)ユニット(unit)を借りるという。
観光する際の混雑がほとんどないこともオフシーズンのメリット。実際往復の飛行機でも後ろの席はガラガラなので、3席から4席を一人で占領して、ゆっくりとはいかないまでも、横になって眠っていくことができる。また空気が澄んでいる上に、マウント・クックをはじめ、沢山あるアルプスの峰は全部雪をかぶっていて、数ある神秘的な湖水に影を映しながら青い空に聳え立つ雄姿は、朝焼け雲の下であろうと、夕焼けの赤が加わっても、強烈な印象を脳裏に刻み付ける。しかも北島の北の方は亜熱帯の気候なので、冬の6月でもハイビスカスの花やバナナの実がなっているのが見られるところがあるので、冬の南から初夏の北へと変化に富んだ旅行を楽しむことになる。
それでも南島の南の方はかなり寒くなる。クィーンズタウンなどでは朝起きると車の窓にはかなりの厚さの氷が前面ガラスに張り付いていた。大量のお湯をかけながらワイパーを何度も回し一応は溶けるのだが、走ると寒さでまた前面ガラスの水が凍って見にくくなるので、ワイパーを回しながら暖房を窓に吹きかけ、やっとのことで視界を保つことができた。道路も霜や薄い氷の層が張り付いていて滑りやすいのに、現地の人はカーブでも100キロ近いスピードで飛ばしていく。こればかりはマイペースを維持するしかない。
冬の旅が不利なもう1つの点は日照時間の短いことである。朝は7時でもまだ暗い。でもその暗い公園の周りの道などをジョギングする人の多いこと。寒くても半そでに短パンである。通勤者も暗いうちから出勤する。そして午後は4時半ころからもう暗くなり始める。我々も4時にはもう泊まる場所を探し始めた。実際大都市以外では、暗くなると本当に真っ暗で、車のヘッドライトも上向きでないと道が曲がっていくのも良く見えない。
南島の南部東海岸にあるダニーデンの海側に突き出たオタゴ半島はアホウドリやペンギンで有名なところだが、その突端に行くには海岸線に沿って20キロも続くヘアピンカーブを進まねばならない。道路わきにはガードレールなどは一切なく、ちょっとハンドルを切り損ねると海の中へドブンとなるはずの片側1車線の曲がりくねった道路の時速制限は70キロ。これが夜になると真っ暗。さすがに道路中央の境界線上に埋め込まれた豆電球のような誘導灯が転々と見えたが、それでもおっかなびっくりの運転だった。近くのダニーデンに長く住むAllanさんにこのことを言ってみたら、「私だってあの道で70キロはとてもだせない」と即座に言った。罰金をとるために低く設定されたような日本の制限速度に慣れていると、「やれるならやってみろ」的な、自己責任にゆだねたやり方は新鮮である。制限速度標識の信頼度が高まり、無視できなくなるから不思議だ。
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