交通機関と自動化 築地市場 電気街、博物館、相撲 皇居・銀座・浅草 明治神宮・原宿 鎌倉 箱根 個性的な旅
ガイドの実際 (マレーシアの大家族、シンガポールの若夫婦、オーストラリア移民一家、パースの富裕家族、スウェーデンのセルビア人移民、ドバイのスーダン人、ギリシャ人6人、シドニーの夫婦、スイスからのオタク若者 田無訪問アメリカ人 イギリス人茶室体験 NYからの大学教授 日本古典を教える米教師 長旅の最後の鎌倉 中国で英語教師をする女性 ニューヨークタイムズの記者 カナダへ移民のカプル ヒンズー語を話すムスリム・イタリア人)(下の地図はクリックで拡大)
この2年間に18カ国122人の外人観光客をガイドした。しかし外国からの訪問客に東京を案内していてよく思う。あの美しい海岸や文化遺産に囲まれた国々に住んでいて、なぜ新婚旅行先まで、この雑然としたメチャクチャな東京や日本に決めるのだろうかと。実際、皇居も浅草も銀座も明治神宮までも、すべて62年前の空襲で焼失し、せっかく案内しても、そこにあるものは私の年齢より新しいものばかりだからだ。
それでも例えば浜離宮庭園の中にある茶室は外国人に独特の印象を残すようだ。赤い敷物の上に長い足をもてあましながら座り、抹茶をすする。緑一面の庭園に囲まれ、木製の狭い橋の下を白鳥がゆっくり進む池を眺め、つかの間の静けさを楽しむ。そして気が付くと庭の向こうには汐泊の高層ビル群が迫ってくる...。などという奇妙な取り合わせが外国にあるだろうか。それは彼らにとって夢のような経験なのだ。
しかしガイドとしては現実に立ち返って、この抹茶がなぜ500円もするのかも説明しなければならない。
「このお茶はレストランなどでタダで出されるお茶とは材料も製法も違っています。茶のbushの若い葉だけを選んで摘み、自然乾燥させて、煎り、石臼で粉にしたもので、それを80度くらいの湯に溶かしてそのまま全部飲むのですよ」と言わないと単なる場所代だと思われてしまう。さらに
「すすって音を出すのは a sign of appreciation(感謝の気持ちを表す行為)であって、欧米と違って、失礼とは考えられないのです」と付け加える必要もある。更に、お菓子はお茶の風味を引き立てる意図があることや、飲むときに、碗の正面に口をつけず、90度ずらして飲む心遣いを教えると、「これこそ日本文化だね」と感嘆の声があがることもある。
5分も待たずに乗れる東京の国電や地下鉄の効率の良さには大抵の外人がびっくりする。それに例外なくほとんどの人が車内にチリ一つ落ちていない清潔さや、どこにも落書きがないことに感嘆する。しかし、ラッシュ時の押し合いを通り抜け、缶詰の中のいわしのように身動きが出来ないまま30分も満員電車に乗ると、若い男でも気分が悪くなる人もいる。新宿駅ホームなどで昔雇われていたラッシュ時の「尻押し屋」は外国にも知れ渡っていて、本当にそんなことがあったのかと半信半疑の様子で尋ねてくる。それでも、電車が到着して降りる人がすむまで、通路を開けて整然と待っている人たちを見て、マレーシアから来た若者は感嘆した。かの地では列を作って待つということは考えらず、乗り物が到着すると入口は乗降客が一斉に押し寄せて大混雑になるのだという。
でも最近では弱弱しい老外人を案内して電車に乗り込んでも、席を譲る若者はめったにない。詰めれば座れる余地がある場合は詰めてくれるように言うことにしているが、特に子供連れの若い母親が必要以上のスペースを占領している場合など、子供がいるのにいやいやながら身を動かす。逆に、案内されている外人は、座っていてもすぐに老人に席を譲る。日本人のモラルの低下を実感する瞬間でもある。
ヨーロッパなどでは改札がかなりいい加減なのか、東京の自動改札も驚きの的だ。初めての外人には入口の読み取り機を通った切符を取るように言わないと必ず忘れる。そして終点まで持っているように指示しないと失くしてしまう。でも
「日本では国電や地下鉄でなぜ検札に来ないのか?」と聞いてくる。
「ヨーロッパでもし検札が来なかったら、切符を買う人などいなくなるよ。見つかるとひどい罰金を払うハメになるから買うのさ」と若い人たちは公然という。でも彼らには機械を改良することで不正乗車を防ごうという発想はないようだ。
東京は様々な仕掛けの巨大な実験室だ。一昔前まで、鉄道学校を出た若者が鋏をカチカチいわせながら切符を切っていた場所には、いつの間にか無人の切符読み取り装置が並び、カードの入った定期入れをタッチすればすむ。自動販売機や銀行のATMの背後にはまるで案内嬢がいるように、人工音声で指示が流れ、最後には「ありがとうございました」と機械がお礼を言う。インターネットはあっという間に「光」やADSLがほとんど世界最安値で利用できる環境が整う。大きなビルなどの公衆のトイレは手をかざすだけで水が流れ、使用中は水が流れる音を人工的に出して、プライバシーを保護してくれる。しかし「手かざしセンサー」にはもちろん、広く普及したウォッシュレットにも英語の表示はほとんどない。外国人は手をかざすセンサーなど理解できず、水を流すのに赤い非常ボタンを押して、係りが飛び込んできても何のことか分からない。一方、昔からの和式のトイレもまだかなり残っている。外人観光客であふれる箱根の大涌谷の大きな休憩所でもほとんどが和式だ。これは多くの外国人には全くの謎で、デジタルカメラで撮ってきた便器の映像を見せながら、これはどっちが正面なのかと真顔で聞いてくる。教えると、大抵は逆向きに使ったと、笑いながら告白する。トイレの中での困惑振りが伝わってくる。和式だと分かると、あきらめて出てきてしまう人もいる。あの狭い場所で中腰から立ち上がるのは、日本人でも厄介だが、経験のない太った外人にとっては大変なことなのだ。<次ページへ>
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