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今回のオーストラリア人夫婦は白馬でスキーを楽しんだあとの旅行であった。オーストラリア人は北海道のニセコ近くに大挙して押しかけ、日本人のスキー場を乗っ取っていると豪州でも批判があるそうで、そのため故意に北海道を避けて白馬にしたという答えが返ってきた。日本人が大挙して外国に行くのが批判されるけど、同じようなことがオーストラリア人に起こっているのを知って驚いた。
第1日12/25(日)2011年
電話か来たのが9:00amだったので、11:00に池袋のホテルのロビーで会った。会ってみると意外に感じの良い青年。態度は丁寧で、とりあえず交通費として3000円を差し出した。隣国以外の海外旅行は初めての20才。チューリッヒの郊外20kmに住み、スイスの国鉄職員で検札をしているという。前日成田到着後JRパスやモバイルを確保しようとみどりの窓口や池袋のSoftbankの店を訪ねたそうだが、英語が通じなくて苦労したという。JR Passを買うときにくれるスイカのカードを持っていたので、まず池袋駅の自販機の前でチャージの仕方を教える。これは英語の表示に切り替えられるので問題ない。
スイスの鉄道マンなので、列車には格別の興味を示し、色の違う列車を見るごとに歓声をあげて夢中になってシャッターを切る。何しろバックパックの中は棚になっていて、種々のレンズ、フラッシュ、バッテリーなどがぎっしりと整理されて入っている。新宿駅で降りて特急あづさや近距離の中央線の写真、それもグリーン車と普通車の部分を区別して撮り、中央線快速に乗りかえた車中でも、混みあった状況が珍しいようだ。車掌なので、立っていることは気にならないらしく、席が空いても座らないので、こちらも何となく座りにくい。
東京駅に着く。東北新幹線の改札を確認。彼は鉄道員らしくJRパスの種類も任意の4日を1日ずつ自由に選べるフレキシブル・パスを選び、グリーン車用。だがJR東日本パスなので関西方面には行けない。仙台、青森、新潟、長野などの往復を計画しているようだ。特に新しい「はやぶさ」に乗りたいとのこと。最速「のぞみ」に乗れないハンディのある関西方面行きJRパスと違って、どの特急にも乗れるJR東日本パスの利点を知っている。
丸の内側に出て皇居に向うが、ここでも青空を切り取る高層ビル街に感動。魚眼レンズまで持ち出してシャッターを切り続け、なかなか進めない。二重橋でも遠くに見えるガードマンを望遠で顔の表情まで見える写真にする。
いつものように東御苑に寄る。日本庭園は工事中で塀で囲われ閉鎖中。天守閣跡から北桔梗門を抜けて内堀沿いの大手町駅から浅草へ。スイスには地下鉄もないとのことで、これも興味津々。
浅草の仲見世はあまり興味がなさそう。それも砂糖アレルギーで砂糖の入ったお菓子は全てご法度。しかしおみやげにはスイスチョコレートは用意して来ていた。自分で持ってきたと言うビスケットを味見させてくれたが、全く味が付いていない。たまたま年末のお祭りの日曜日で境内は大混雑。砂糖はダメだし、昼食の場所探しも大変。見ると屋台がズラリと並んでいて、から揚げやたこ焼きが目に付いたので、提案。私が最初に毒見をしてひっくり返らないのを見たら、彼も食べ始めてあっという間に平らげた。これで満腹ということで、次は本命の秋葉原。駅に着いたとたんに彼の興奮が伝わってくる感じがする。すでに4時半をまわっていてネオンがきれいになり始めた歩行者天国の大通りで、"Oh, my God!"を連発しながらたシャッターを切る。しばらくして我に返ると「持参したノートパソコンのコネクターを買いたい」という。端が小さな3本足のプラグと日本のACプラグのついたケーブルをやっとヨドバシアキバで見つける。780円で10%のポイントが付くので、一旦私のカードのポイントから78円分抜いて、新しく買ったプラグのポイントを私のカードに入れて、差し引きゼロにしてくれた。ここまでやらないでもいいかもしれないが、日本国籍でないとカードを持てない制度の中でポイントを外国人に還元させるにはこれしかない。店員もその辺は心得ているようだ。
これで彼はホテルのWiFiを使って自分のパソコンで今日撮った写真を故国の友人に送れると大喜び。Facebook にもアップロードすると、皆が羨ましがって、"I'll kill you"という言葉がいくつもかえって来るそうだ。命が100個あっても足りないくらい彼らはjealous(どういうわけか「チラス」と聞こえてわかりずらい)になるそうだ。しかし昨夜ついたばかりなので、時差ボケもあり、そろそろホテルへ戻ることにして、JR池袋駅までおくってこの日は終り。
第2日12/26(月)
10時に秋葉原ということで駅前で会う。5分前には現れてpunctualだろうと自慢げ。うっかりしたが、今日は月曜日でUDXビルの「アニメ・センター」は休み。しばらくヨドバシアキバでカメラの交換レンズを物色したあとで、彼がメイルで行きたいと言っていた「まんだらけ」というアニメやゲームソフトの黒いビルへ行く。彼はいつも快活で笑顔を絶やさず、よく気も遣うことができるし、礼儀正しいのだが、自分では典型的な「オタク」だという。両親は離婚していて、母親と暮らしている。母はオーブンを輸入して販売する会社のCEOで、父が今住むロシアに家も建ててやったほどの金持ち。ガールフレンドはいたが、彼がオタクだと分かると分かれていったという。自宅の彼の部屋の写真をiPhone4に入れてきて何枚も見せてくれたが、アニメ一色という感じ。壁という壁には天井から大きなアニメの巨大なキャラクターのタペストリーが何枚も垂れ下がり、棚は全て大小の様々の色と形の奇妙な人形のコレクションで満たされている。反対側の棚はゲームソフトの箱が並べられ、机にはパソコンやゲーム機が整然と置かれている。
店を一緒に歩くと、人形、大小の絵、タペストリー、クッション、枕、などあらゆるものの場所で、「これは家にもある」と彼がいう物がゾロゾロ。ちょっと見たところ私には小さなプラモデルの人形にしか見えないものが1万円以上もする。材料が違うのだとか...。ハグして寝るための大きなキャラクターの絵の入ったクッション、というか布団まである。
なぜこういうことに没頭するのかと聞くと、やっぱり寂しいのだという。そして多くのスイスの若者もそうだという。その心の隙間に幼少の頃からなじんだ日本の「文化」はピッタリと入り込むらしい。だから彼がこの方面のホームページで情報を発信すると、すぐに数千のアクセスがあるとか。ゲームソフトの売り場を歩いていて、日本人向けに日本語でしか書いていないパッケージをちょっと見て、表面に書かれている日本語、例えば「星空に架かる橋」などという文字がスッと読めてしまう。というより、描かれたキャラクターの絵を一目みて、慣れて覚えている日本語が自然に口に出る。彼自身はできないが、彼の友人仲間はほとんど日本語のまま日本の漫画を読んでしまうそうだ。
「全部費用を持つからメイド・カフェに行ってみたい」としきりに頼むので、近くの店に入ってみる。裏通りのせいか、席料は安く315円かかるが、かなり空腹だったので、そこで昼食にする。肉と魚の付いたランチセットや生チーズのかかったカレーライスが800円だからまあまあ。2人のメイドもセーラー服にエプロンを着けただけの学生風で、変に飾り立ててはいない。お客は我々以外に中年の男性1人だけ。スイス人が来たというので、メイドも寄ってくる。彼女らも何とか英語で話しかけようとするが中途半端。助け舟を出しながら、コミュニケーションもとるが、月並みな質問。しかし彼自身は「生身の」日本人少女と話が出来て非常に満足そう。写真を撮りたがるが、厳重に見張られていて料理以外は一切撮らせない。しかし店を出たあとで、「あのメイドは私の好みで、スイスへ連れて行きたいくらいだ」と言った。人間以上に人形やアニメの世界に没入しているようで、やっぱり人間にも興味があるんだと少しホッとする。秋葉原というのは、オタクの世界とその延長線上の生の世界を彼らが両方行き来できるように作り出された妙な空間のようだ。メイド・カフェなるものが出現するもともここにあり、最初に風光明媚な世界の観光地スイスからなぜわざわざ汚い東京に来たのかと聞いたときの答えも「秋葉原」だった理由が少し分かった。
そのあと東京を高いところから眺めたいというので、新宿の都庁へ登る。例によって高機能のカメラを駆使して、陰影と構図のおもしろい写真を次々に撮っては自慢げに見せる。左半分雲がかかっていたが富士山も見えた。隣のNSビルの吹き抜けにある世界最大という振子時計も見せて、新宿から山手線に乗せて別れた。
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