格安航空が広島で事故を起こしバッシングに会っている中、片道2,980円で奄美大島へ行ってきた。成田空港にも格安航空用の第3ターミナルが出来て、「格安」も普通になり、一応ヤドカリ扱いから解放されて市民権を得て、結構込み合ってきた。
パラダイスを求めて世界16カ国を回った奄美の人が、結局辿り着いたのはこの奄美だったというエピソードが出ていたが、沖縄と違って都市化が進んでいない自然美、とくに入り組んだ海岸線と沖の小島が作る絶景が、行く先々、いたるところにに姿を現す。離島の必然で物価がやや高いが、冬でも10度を下回ることがないという亜熱帯に引退後の住処を見つける人も多いようだ。以下春の4日間の旅日記である。
2015/4/15(水)
昨日広島でアシアナ航空機が着陸時に信号機に接触する事故があり、娘が朝心配してメイルしてきた。それでも近頃には珍しい快晴。家内の体調も良く、定刻に余裕を持って出る。格安航空バニラ・エアで2,980円の奄美行き。日暮里からスカイライナーに乗ると江戸っ子の家内が育った下町を抜けて電車が進む。新しく揃えたiPad miniにはGPSと地図がいつも備わり、大きな画面に電車の進行に応じて周りの状況が手に取るようにわかる。
成田空港の国内線用にこの4月から第3ターミナルが出来たが電車の接続駅がなく、第2ターミナルからシャルトルバスが通う。ターミナルの建物もまだ建設が中途半場で、梁の鉄骨に溶剤を吹き付けたままむき出しで、これでも完成したのかと疑いたくなる。飛行機に直接乗り込めるブリッジは一切ないので、飛行機は10mほどのところに駐機しているのに、「安全上」からかシャトルバスに押し込まれて移動。飛行機もA320で160人の座席はほぼ満員だが後部は空きもある。気流が安定しないとの予報通りときどき揺れる。GPSは衛星から信号が来るのでiPadの地図上には常に青い点が点滅するように表示される。離陸時に電子機器から発信すると操縦妨害になるようだが、受信する分には問題ないはずで、地図上で滑走路を飛行機が進むのをiPadで追ってみる。飛行機が滑走を始め、点滅する円が液晶画面の長い滑走路の真中あたりに来たときに、機体がフワッと離陸したのが分かる。やがて九十九里沖に抜けて、太平洋上に出ても、iPadは不思議なことにネットから地図を受信している。大島の沖から紀伊半島の南を抜ける様子もよく分かる。格安航空だとテレビ画面や音楽などの設備は一切ないので、iPadを使って常に位置をチェック出来ると、分かりよいナビゲーションになる。奄美空港の上空に差し掛かり、滑走路の北から侵入し始めたので、着陸するのかと思いきや、そのまま滑走路すぐ上を通過。操縦士の訓練でもしているのか、その同じタッチ&ゴーのようなことを2度繰り返し、3度目にやっと着陸。GPS で見ていると滑走路の半分の地点でやっと着地。そのまま逆噴射をかけて滑走路を使い切ったあたりで、やっと誘導路へターン。省エネ操縦(?)なのか。
外は初夏のように暖かい。早速「奄美レンタカー」に行く。私の車と同じマーチの新品を用意してくれていた。保険免責なしの完全補償で3日借りて13,000円だから安い。道はやや狭いが車はほとんど来ないので、気が楽。沖縄とは全く違う。
全ての部屋がオーシャンビュー。去年の四国の足摺岬の宿のように、ここも平成天皇夫妻が2度も訪問され宿泊されたというスイート・ルームの隣の部屋を割り当てられる。現天皇が皇太子で成婚直後と昭和28年の奄美本土復帰から50周年の2003年だそうだ。南国の爽やかな風は少し海の湿気を含んだ冷たさを湛え、快い。ホテル前に広がる土盛海岸を散歩してみる。赤い大きなユリに似たラッパのような花。黄色い丸くかわいい野生の花ビラ。 岩の上を這っていたヤドカリが足を滑らせて落ちると丸くなって足をひっこめ、怪我をしないようにする本能に感心。真っ青な海の上を動く波がが岩礁で白く砕ける。バカでかいアロエ。砂の上に放置されたイカリが潮風を浴びて錆びている。一面の白い砂、その上に打ち上げられたサンゴの白いカケラ。波間から顔を出す岩に貼り着く青ノリ。透明な水の下に見えるサンゴ。小屋の看板にはダイビング29,000円とある。奇麗な海のスポーツは高価なのか。
夕食には面白い巻き貝の刺身が出た。サザエのように、円錐形の貝のちょっとした隙間から出た肉を引っ張り出して食べる。東京ではタコは、築地市場でさえ、ボイルされて白くなり、場合によっては赤く着色されたものしかお目にかからないが、ここでは全く生のタコを刺身で食べる。マグロも口で溶けるように柔らかい。沖縄と同じゴーヤシャンブルも懐かしい。
食後、宿の人が星空観察に案内してくれた。ホテル付近だと、電灯などの明かりが邪魔して星空の良さが分からないという。近くの真っ暗な海岸近くに連れて行ってくれる。クッキリと光る北斗七星、カシオペア。流星が流れたと思ったら、飛行機だった。昨日までの10日間は雨と曇りの連続で、こんなにきれいな星空が現れたのは幸運だといわれる。天の川にはまだあと1ヶ月を要するとか。良く見ると、明るい目立つ星の間には無数の細かい星も微かな光を出して輝いているのも確認できる。
4/16(木)
快晴。窓から見る外の海は格別。太陽に反射してまばゆいばかりの海。その上を低空で飛んでいく旅客機。南洋杉が大きな厚い葉を伸ばす。南洋の味がするジュース、グァバ。ミキという奄美だけの乳酸菌飲料も朝食に出る。窓の外にはトックリ型の幹を持つ南洋樹。味噌汁までがモズク汁。
外に出ると清々しい爽やかな風。黄色の花びらに囲まれて中央に黒い中心を持つオオハマボウの花。2,200キロも飛んでこの島で越冬するというアサギマダラは暖かくなったこの時期にはもう居ない。
今日はまず近くの「奄美パーク」へ。駐車スペースは碁盤の目のような小さなコンクリート枠で出来ていて、その間から草が伸びるように作られて奄美らしい。郷土の生活を伝える民族博物館と素朴で美しい島の生き様を伝える映画による紹介、それに田中一村の美術館を含んで620円だから良心的。障子もガラス戸もない家で暑い夏を寝転んで過ごす様子が分かるモデルスペースがある。常夏の国の開けっぴろげの生活が見える。土地の人はみな優しい。沖縄と違って特に言葉の訛りもなく、分かりやすいのが良い。奄美紹介の映画も厳しい生活や過酷な自然環境も正直に描写している一方で、その広大な大自然の美しさや感動的なシーンも含まれる。
郷土の画家、田中一村は晩年をこの地で過ごした。芸大で東山魁夷などと同期なのに中退の彼が自分の才能を一番自然に出せるのでは...と感じて、日本のゴーギャンのようにこの地に惚れ込んだ。だからこの土地の人も彼を讃え、記念館を作った。単なる日本画家と違って、素人が見ても、一面的でなく、色の濃淡や変化の妙がある。家内がアサギマダラが描かれている絵があると興奮。彼の絵に現れる動物や植物を見ているだけで奄美の生物の多様性に驚かされる。
いわゆるセブンイレブンやローソンなどといった大手のコンビニはこの島にはない。多くのコンビニらしい店も地元の人たちの産物の集積販売所といった趣き。地元の人たちが作った梅干オニギリを食べてみる。海苔をパリッとさせる包装ではないが、素朴なシソの色と風味。沖縄と同じように黒糖も名産。それを使ったお菓子類も多い。
広大な沼地に広がるマングローブの大きな森を上から眺める。フロリダで見たものよりは規模が小さいが、沖縄のものより大きいかなと思う。1500円払ってカヌーで動き回るツアーがあるが、スケールが違うフロリダが思い出されて、やめる。
そのまま「やけうちの宿」へ。お客ごとに孤立した綺麗な広いバンガローが割り当てられる。太い柱を使ったしっかりした作りで、小さな台所と風呂、冷蔵庫、洗濯機までついている。町興しで町が造り第3セクターが運営しているそうだ。別棟の大きな建物に温泉のような温浴施設も付いていて、宿泊者はタダで利用できるというので、入ってみる。土地の老人のたまり場になっている。聞くと月に3,000円で毎日何度でも入れる会員制度があり、みなが利用するのだと言う。寿命が延びるわけだ。夕日のやけうち湾をドライブ。青い水の湾は小さな島が重なり合う。その向こうの水平線にまぶしい夕日が海面の照り返しの中をゆっくり沈んでいく。静かで美しい瞬間。湾の静かな水面には養殖の浮きが張り巡らさせて浮き出て見える。夕食でエビ天を注文したらこの養殖場から直通のものだった。太い身はもちろん、エビの殻だけを頭付きでそのままカラカラに揚げて出された。
食後ニュースを見ていると、臨時ニュースで、奄美地方に竜巻注意報が発令されたと出た。しかし1時間待っても平穏そのもの。iPadでネットにつないで天気図を動かしてみると、奄美本島の北に帯状の雨雲があるが、本島上には何もない。奄美地方というのは奄美から鹿児島にかけての海上も含むので、ただ「奄美地方」では関係のない本島の人たちまで巻き込んで心配させることになる。案の定そのあと3度も出された「奄美地方の竜巻注意報」は本島には無関係で、雨風とは全く無縁の静寂そのものの一夜だった。お役所のズサンさとネット情報の取れるありがたさが分かった。
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