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2014年「後期高齢者」の1人になって、体力的に連日のガイドは厳しくなった。途中休憩や食事があっても、1日早朝から暗くなるまで、歩き続けるとかなり疲れる。でも、依頼の中には断りにくいのもあり、こちらも珍しい個性との出会いが楽しみで出かけた。大抵は私よりかなり若い人たちだが、車社会の生活に埋まって生活している人も多く、速く歩くことや長く歩くことには慣れていなくてすぐに疲れてしまう。私は逆に救われたし自信が持てた。「日本は老人が尊敬されない社会だね」とあるカナダ人が見抜いていたが、ガイドをしている限り外人は我々老人を大切にしてくれる。今年は教育関係の大学生団体2つやタイからのダイビング・クラブのグループなどもあった。サメと泳ぐのが趣味の人、内乱中のウクライナからの家族、世界的な名医、日本人パティシェのケーキを8,000円も食べたグループ、日本食の好きなコスタリカ人など珍しい人に会えた。私がガイドクラブの仲間に書いた「報告書」からご紹介しよう。
マンハッタンからハドソン河を挟んで反対側にあるニュージャージー州の小さな町Teaneckの私立大学Fairleigh Dickinson University教育学部の学生7人と教授2名から、日本の中学・高校の学校訪問をするので通訳をしてほしいと言われて、Nさん、Mさんと私の3人で小岩4中と都立青山高校で1日ずつお手伝いをした。
7/9(水) JR小岩駅から徒歩10分の小岩4中7:45集合とのことで、家を6時過ぎに出て7時半に到着。間もなくNさんが見える。副校長S先生が出てきて挨拶。生徒はもう朝練中。6:30から来ているということで付き添いの先生も大変。軟式テニス部がテニスコートではなく、運動場を占領して練習中。定刻に米人9人が到着。すぐにMさんも到着。8:15には全職員の前でBryanの挨拶を私が通訳。控室の会議室に戻って今日の予定の調整。参観者は大学生7人(全員20才)とBryan教授(40)にDaniel教授(64)だが、学校側が作った割振り表だと1年と2年の7クラスに大学生が一人ずつ入って参観。7人の学生の通訳の割振りで、Bryanは日本語がかなり出来るので、Paigeが参観する1-1(1年1組)クラスに通訳として入ってもらい、MさんがDonaldとAlex(2-3)、Yuki(2-4)は多少日本語が出来るので、通訳なし。NさんがJessica(1-2)とAyle(1-3)、私がSammy(2-1)とHarry(2-2)の面倒を見るという分担にした。
従って以下は私が担当した2名の男子学生に関する授業参観の様子。
1限目は体育だが男子は水泳、女子はハンドボール。まず何故男女に分けて体育をやるの? と聞かれる。米国では男女一緒が普通とのこと。逆に何故一緒にやれるの? がこちらからの疑問。「普通教科」に重点が置かれ、体育や音楽などは一種の息抜きの時間らしく、体育などスポーツウェアに着替えたりさえしないこともあり、体育と言っても激しくスポーツをするというより屋外で遊ぶ(?)短い時間のようだ。またアメリカでは事故防止のため、準備運動などを生徒だけでやることは一切禁止で、日本で先生が来る前から生徒だけで準備運動をしている状況を見て「大丈夫か?」と驚く。
屋上プールで男子の見学。プールは深いものだというのが常識のようで、屋上には作らないので、まずプールが屋上にあることに驚く。欧米では水泳は普通には水に入って水に親しむものらしいが、学校ではやらない。実際この授業でもそうだが、日本ではすぐに速さや距離を競い合うことになるのとは対照的。
2限目 Harryは英語授業参観なので英語の先生にお任せして、Sammyの数学に付き合う。鶴亀算を連立方程式にしていき、それを解く授業。まず「連立方程式」の英語simultaneous
equationsが出ず、iPhoneで調べる。ついでに2次方程式(quodratic equations)、最小公倍数(least common
multiple)も必要になる。問題のプリントが配られると、物理学専攻のSammyは難なく解く。先生が気を利かせて彼に連立方程式の解法を教壇で説明しないかと言うと、彼も乗り気で、チョークを持って見事に英語で説明。ちょっと早口なので、こちらもときどき口を挟んで手助けをする。生徒からも分かりやすいと評判が良い。Sammyの苗字はアラブ系のAlkhalili。アラブ人の父とアイルランド系の母を持つ、陽気な185cmの大男は教壇に立っても迫力がある。
3限目 今度は逆にSammyが英語授業でHarryが数学なので、Harryに付き添う。Harryは大学で社会科専攻のせいか、数学が苦手。同じプリントを渡されても手が出ない。その旨を担当教師に説明してHarryには、教師が黒板で説明していることを同時並行で私が説明。2度目なので私には都合が良い。
4限目は社会科があったので社会専攻のHarryの番。物理専攻のSammyは理科授業なので、これも都合が良い。私は両方を見なければならず、最初の25分を社会科のHarry、後半をSammyに貼り付く。社会科は地理で人工衛星からみた地球全体の夜の画像を見ながら、明かりの強い部分の背景を推測させる授業。Harryは元々フィリッピン系のアメリカ移民なので、両方の文化を体験していて興味津々の様子。25分経過しSammyと理科の実験室へ。たまたま唾液が澱粉にどのように働きかけるかを唾液の代わりに水を混ぜたものと比べる実験。試験官に「唾液+澱粉」と「水+澱粉」を混ぜたものを4本用意して熱を加え、色の変化を観察する。ここでも「唾液」のsalivaがスッと頭に浮かばずイライラ。あとで考えるとliquid in the mouthとか何とか言えば良かったのに...と思う。
やがて給食の時間。机を並べ替えていくつかの大きなブロックを作り、大きな白いテーブルクロスを一面に敷く。出てきたのは小さな白身魚切り身のフライと野菜少々、味噌汁とご飯にミルクと冷凍ミカン。彼らにはとても足りる量ではないが、空腹でもあり(Harryなどは3限後には空腹を訴える)、味のしない白米も含めてすべて残さず食べきる。Sammyが味のしない白米を持て余しているので、味噌汁と一緒に食べることを勧めて食べきった。食後少しゆっくりしたい様子のSammyも食べ終わらないうちに生徒がテーブルクロスを外しにかかったりして、日本の慌ただしい時程にも馴染めないようだった。一番美味いと言ったのは冷凍ミカン。
5限は「道徳」。1学期の反省をアンケート用紙に生徒が記入するだけで話しあいもないというので、大学生と我々は控室で懇談。しばらくしてクラス全体で外人を入れて写真を撮りたいというので、教室へ戻り大騒ぎで写真を撮る。
生徒は一旦全員帰宅して、先生方は職員会議。部活の生徒が4時に再登校して活動するとのことで、我々は控室で懇談を続ける。ここでNさんは介護で帰宅され、Mさんと私で日本の教育制度や学校についていろいろ質問を受けて答え、アメリカの制度などについても質疑応答。私も以前長年高校教師をやっていた経験から当時との比較で、日本の教育行政で教師から教える自由を奪って、政府が支配する形に変化させ、生徒と教師の好奇心を失わせてきた過程を説明。求められるまま、私の教育や教職に対する考えも少し披露した。彼らが教師を目指す若者たちなので、Bryanが特に実際の教職経験からくる考えを学生たちに聞かせたかったようだ。拙い考えにもかかわらず学生たちも熱心に耳を傾けてくれて申し訳ない気もした。
Mさんもご家庭の事情でここでお引き取りになり、私が4時からの部活に付き合う。体育館ではバスケとバドミントンが行われていて、熱心に動きまわる生徒に彼らは驚く。BryanやDanielも加わって全ての大学生が、中学生と一緒に運動に加わる。ムシムシした空気だったが、それまで1日中教室に居たので、少し良い汗を流したという感じ。その後、次回の訪問日7/14に体育館で朝礼で行う予定のアメリカの学生生活スライドショーの打ち合わせをして5:30ころ学校を離れる。小岩まで通りの店などの説明をしながら歩き、駅で反対方向の電車に乗る彼らと1人1人握手をして別れを告げた。
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7/10(木)今日は9時に青山高校へ集合の約束。しかしアメリカ人の一行は時間になっても現れない。
9:05に私の携帯に、やっと外苑前に着いたので5分後には着くとのこと。あとで聞くとホテル近くの東西線木場駅でホームに来る電車の乗り口に人が一杯で9人も乗れないというので、何台かやり過ごしたと言う。ダメなので1ヵ所の口で押し込んで乗るということはあきらめて、4人と5人に分かれて2つの口で乗ったら、お互いにはぐれて日本橋の乗り換えで合流するのに時間もかかって遅れたとのこと。でもこんなギュウギュウの目にあったのは人生で初めてで学生には興味ある経験だったとか。
玄関で靴箱に靴を残してスリッパに履き替える。普通サイズのスリッパだが、米人男性が履くとカカトがほとんど外にはみ出してしまう。大きなスリッパはないかと言うが、もちろんなく、半分は裸足同然でカカトでズボンのすそを直に床に踏みつけて汚しながら、ノッシノッシと進むということになる。来訪者が自分でスリッパを用意すべきなのかもしれないが、2足制そのものの意味が分からない外人に期待するのは無理かもしれない。その他にも体育館、道場、パソコン室、プールなどに入るたびに靴を脱ぐことを求められ、履物を替える習慣がない米人にはやっかい。「国際化」とはよく言われるがこのような点も盲点だ。
今日は職員への紹介はない。校長が控室に挨拶に来る。全都立高で上から7番目の学校だと自慢するが、世界の教育者を前にして、校長が受験業者の偏差値ランクだけしか言えないのは非常に情けない。実際に、2時間目の英語コミュニケーションの授業を皆で見せてもらう。生徒は来訪者で委縮したせいもあろうが、質問されても自発的に答える生徒はゼロ。指名されてもほとんど答えにならず、とても優秀とか積極的とも言えそうもない。教師の方もうまく誘導できない。
3限目は家庭科の授業を皆で見る。被服室でボタン付け。数名のグループに分かれて、それぞれに外人に入ってもらう。米人学生も不器用な(?)手つきで何とかこなして喝采を受けている。アメリカでは裁縫も機械でこなすことが多いようだし、折り紙の紹介もあり、めったに経験できない授業を楽しんでいる様子。米学生は自分の「作品」をおみやげにもらう。「『結び付け』の実習は2つの文化や国を結びつけることを象徴するようで嬉しい」とBryanが言うので、家庭科の先生に伝え、両方で喜ぶ。
担当のU先生がランチに連れ出してくれる。外苑イチョウ並木の通りにあるイタリア料理店。ランチが大体1000円前後。彼らは団体旅行で暮らしているが、普通は食事はそれぞれがかってに自分の好みに合わせて仕入れたり、個々に食堂へ行ったりして済ませているようで、今回は全員が同じ場所で食事をしたし、Bryanさんが我々ガイドの分を払うこともあって、珍しくまとめて彼が払い、気を遣ってホテルへ帰ってから清算するようだ。
神宮外苑のイチョウ並木を歩いて学校へ戻る。午後は生徒の有志が15人ほど集まり、3組に分かれて外人客を案内して校内巡りをする。有志生徒なので、帰国子女も多い。しかも小グループなので、生徒も友人に説明するようにわりにリラックスしているが、ときどき話が通じなくなると我々が手伝う。例えば、ある生徒が運動のリレー競技のことを言いたくて、「リレー、リレー」と言うが、伝わらない。「リレーだけでは「交代すること」にしかならず、「まずTrack and fieldの話だということから始めるように」と言う。我々のグループはHarryとYukiを案内。Harryは日本の漫画アニメにも詳しく、こちらの高校生とその点で話が合う。Harryは大学で日本語の講座を取ったことがあるといってかなり日本語を使おうとするので、一層みながリラックスする。Yukiは外見も名前も日本人風。6才まで日本に居たというが父が日本人、母がペルー人でアメリカへ移住。日本語も少しは分かるが、あまり使おうとはしない。今は父が倒れて、母が働いていて学資も稼ぎ、大変のようだ。教授に聞いても、彼らの大学は私立だし、学費も非常に高く、苦労している家庭や学生も多いという。
5階建ての校舎で更に6階のプールまで覗いて、暑い中を何度も階段の上り下りをして控室へ戻る。お別れ前に生徒たちはスマホのLINEで外人とIDを交換してつながりを作る。記念写真を撮って今日も終わり。
尚7/14(月)も最初の依頼では小岩4中の通訳をすることになっていたが、1日目と同じ学校で、学生たちもなれてきたし、Bryanも日本語が出来るので、彼等だけでやってみるということになった。彼らも2日目のラッシュを経験して、遠くから早い時間に長いラッシュに耐えて駆けつけることの大変さも分かったようだった。
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